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パレスチナのラマダーン月

目次

ラマダーン月とは?

ラマダーン(رمضان, Ramadan)は、イスラム教の暦のなかで最も神聖な月です。

世界中のムスリム(イスラム教徒)は約一ヶ月のこの期間、日の出から日没まで飲食・性的行為を控え、嘘をつかない・悪い行いをしないよう努めて心を清める・神への信仰を深める日々を過ごします。

ラマダーン期間中は、聖典クルアーンを読む・祈りを捧げる、施しをするといった宗教的な行いが増えるだけではなく、家族や親戚などが集まる場面も多く、それに付随する料理や装飾といった文化的な側面をとっても特別な一ヶ月です。

パレスチナのラマダーン月の風習

元来宗教行事であるラマダーンは、何世代もにわたって人々が大切に実践するうちに、地域特有の文化や風習を育んできました。他のイスラム圏と共通する点もありますが、特にパレスチナ独自の風習に焦点を当ててご紹介します。

1. 「ムサハラティ(المسحراتي)」の伝統

ラマダーン中、夜明け前の食事(スフール)をとる時間が来たことを知らせるために「ムサハラティ」と呼ばれる人々が太鼓を叩きながら街を巡ります。

これはオスマン帝国時代に始まった風習で、今でもパレスチナ、シリア、エジプト、レバノンなどに残っています。パレスチナでは、特にガザ地区(難民キャンプでも)や、上に挙げた動画のナブルスを含む西岸地区において、現在も広く行われています。

2. ラマダーン月の特別な料理

家族・親戚が一同に集ったり、モスクなどで大人数で断食明けの食事(イフタール)をとる機会もあるため、ラマダーン月の食文化は非常に豊かです。お祝い事の定番メニューがよく登場する他、この時期に特有の料理もみられます。

  • カターイフ(قطايف):クレープのような生地にナッツやチーズを詰め、揚げたり焼いたりする、パレスチナのラマダーン月の名物ともいえるお菓子。
  • マクルーバ(مقلوبة):肉、野菜、ご飯を層にして炊き、鍋ごとひっくり返して盛り付けるパレスチナの伝統料理。ラマダーン月以外にも祝いの席などで供されますが、人が多く集まるラマダーン月のイフタールでも人気の料理です。
  • タマリンドジュースやキャロブジュース:ラマダーンの断食明けに好まれる伝統的な飲み物。

他にも様々な料理が存在するだけでなく、ラマダーン月の決まった日に特別な料理を作るなどといった一部地域に特有の興味深い風習もあります。

3. 断食前の静けさと、夜の賑わい

イフタールの時間が近づくと、人々は家族や親戚、あるいは友人などと家々やモスクに集まって礼拝・食事の準備をするため、街中は静かになります。

逆に、イフタールの後は都市部では夜遅くまで開いている店が増えて賑わい、特にガザやナブルスのナイトマーケットはその活気で有名です。

また、ランプやイルミネーションで街が華やかに飾られ、子供たちが伝統的な「ファヌース」と呼ばれる伝統的なランタンを持って歩く姿も、パレスチナのラマダーンの風物詩です。

4. アル=アクサー・モスクでの特別な祈り

エルサレムにあるアル=アクサー・モスクはイスラム教徒にとって最も重要なモスクのひとつであり、且つこのモスクでの礼拝は他の場所よりも何倍もの価値があるとされています。

ラマダーン期間中、中でも特に神聖とされる最後の十日間は、モスクに籠ってひたすら礼拝や瞑想などを行う「イティカーフ」に励む人々を含む多くのイスラム教徒がアル=アクサー・モスクを訪れます。

移動が制限されている現状のパレスチナにおいて、イスラエル当局の検問所を通る必要がある人々にとっては、アル=アクサー・モスクを訪れることは決して簡単なことではありません。

また、近年ではイスラエル警察や入植者によるモスク内外での暴力だけでなく、ラマダーン期間中にイスラエル当局が安全のためと称してアル=アクサー・モスクへの立ち入りを​55歳以上の男性と50歳以上の女性に限定したり、2024年にはラマダーン月の神聖な最後の十日間の期間中にイスラエル警察がモスク内に突入して300人以上を逮捕したという痛ましい事件も起こりました。

それでもパレスチナ内外の多くのイスラム教徒が、自身の信仰のため、そしてこのモスクのイスラームの聖地としての存在を守るために、アル=アクサー・モスクに赴いています。

5. イード・アル=フィトルの特別な習慣

ラマダーンの終わりを祝う断食明けのイード祭においては、特にパレスチナでは「マアムール(معمول)」というナツメヤシやナッツを詰めたクッキーが作られ、家族や近所の人々と分け合われます。これは「カアク・アル・イード(كعكة العيد)」つまり”イードのお菓子”という別名があるほど、イード祭との結び付きが強いものです。

また、イード祭の朝の礼拝を終えた後にお墓参りをして先祖を偲ぶ習慣も広く見られます。特にパレスチナでは、亡くなった家族や友人だけでなくイスラエル占領下で命を落としたパレスチナ解放運動の殉教者(シャヒード)の墓を訪れる人々も多く、この習慣には政治的・社会的な意味合いもあると言えます。

2025年、パレスチナのラマダーン月

ここまで紹介した、ラマダーンにまつわる風習のほんの一部からも、パレスチナにおいてこの一ヶ月がいかに大切にされているかが感じられます。これは、2023年からイスラエル軍の猛攻を受けてほぼ全土が瓦礫と化したガザにおいても、変わりません。

我々は破壊と瓦礫の真っ只中にいる。痛みや傷にも関わらず、我々は揺るがない。我々は我々の土地で断食明けの食事をとっていて、この場所を離れることはない。我々は、何があってもパレスチナに留まります。

― ラファ地区の住民 Mohammed Abu Al Jizan

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この記事を書いた人

出雲國の辺境の地から、現代社会の歪みとパレスチナへの皺寄せを憂い、何かできることはないかと模索しています。料理や語学などの文化的観点からのアプローチが主になりそうです。イスラーム圏のお料理を提供するカフェ・アッサラーム(売上の一部をパレスチナ支援へ)を不定期開催中。

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